【お芋文庫】「ベランダーの香り」

仕事帰り、
商店街をふらふらと歩く。

疲れたな。
何か買い物して帰ろう、と思う。

何を買おうか・・・
元気が出るもの・・・
美味しい食べ物でもいいし、
新しいゲームソフトとか、
マンガとか小説でもいいなぁ・・・

そんな事を考えながら、わたしは、
古ぼけた感じの雑貨屋に立ち寄った。

この商店街にこんな店あったっけ?
あまり記憶になかったが、店内に足を踏み入れる。

薄暗い店内には、
ところせましと不思議な雑貨が並んでいた。

店主はカウンターの向こうで
何かをひたすら磨いているようだった。
私をチラリと一瞥したが、
特に「いらっしゃいませ」も何もなく
再び何かを熱心に磨きだした。

・・・変な店だ。

木彫りの置物だとか
ゴワゴワした手編みっぽいバックとか
パッケージに何語かわからない文字が並んだ、
おそらく食べ物であろう袋とか・・・

そんな中、アロマオイルの小瓶が
ズラリと並んでいるコーナーを見つけた。

アロマオイル、か。
良いかもしれない。
何か癒される系の香りのやつ・・・
私はひとつひとつ小瓶を手に取り、
何の香りが良いかと吟味し始めた。

ローズ・・・は、乙女すぎる。。
柑橘系も良さそうだけど、飽きそうだな。。
あ。ラベンダーの香り。定番だけど、良いかも。

そう思って手に取った小瓶には、
良く見ると「ベランダー」と書かれたシールが貼ってあった。

ベランダー?
ラベンダーの間違いだよな。
怪しい店だし、こういうの間違えてもまあいいやって感じで
平気で売ってそうだもんな。

奇妙な生き物が口を開けたみたいな形のアロマポットと
ベランダーと書かれたアロマオイルを1瓶。
アロマオイルを炊くためのアロマキャンドルも。
あとは何だかわからないけど、どこぞの外国の、おそらくお菓子であろう袋を1つ。

それらを購入し、私は帰宅した。

早速アロマポットにアロマオイルをセットする。

ぽとりぽとり。

ほんのりと、香りが立ちのぼる。
ラベンダー・・・じゃないぞ、これ。
私はくんくんと香りの正体を確かめようとした。
私が知っているラベンダーのにおいじゃない。
なんだろう、これ。
でも、嫌いじゃないな・・・

オイルが熱され、香りがどんどん部屋中を満たしていった。
陽だまりのにおい。
洗濯ものが乾くにおい。
プランターの、葉っぱと土と色んな花のにおい。

私はとてもノスタルジックな気持ちになって、
その香りを楽しんだ。

そうか。
これ、やっぱり“ベランダの香り”のアロマオイルだったんだ!
なんともすっきりとした気分になり、
私は良くわからない外国のお菓子をボリボリと食べた。