近所に、新しくパン屋さんが開店した。
パン好きの僕は、これは早速チェックせねば！と思ったのだが、
そのパン屋さんは平日１０時～１８時までの営業で、
僕の出勤時間とまるっきりかぶっている為、
なかなかお店が開いている時間に行くことができなかった。
毎日開店前＆閉店後にお店の前を通りかかるのだが、
「あんパン ５円！」「クリームパン８円！」「食パン１斤１５円！」
など、ありえない価格設定のポップが貼ってあった。
まあ、きっと「開店記念セール！」とかいうことで、
ああいう値段なんだろうな。と思っていたのだが…
開店してから３ヶ月ほど経ってからも、
そのポップに書かれた値段は変わる事がなかった。
今の時代に、パンが５円なんて、ありえない。
少し前に「１０円まんじゅう」なんてのが流行ったけど、
まさかあのぐらい小さいパン？
でも小さいパンなんて逆に作るのが手間だろうしなあ。
悶々とした日が続く。
ようやく、夏季休業が取れる時期になった。
僕の会社は、自分の都合に合わせて、
好きなタイミングで夏休みが取れるようになっている。
よし、やっとあのパン屋さんに行けるぞ！！
僕は、特に旅行の予定もないけれど、
あのパン屋さんに行く為だけに、平日にお休みを取った。
せっかくの休みなので、目覚ましをセットせずに、
１０時過ぎまでたっぷりと睡眠を取り、
腹ペコ状態でお店に向かった。
自動ドアがウィーンと開き、僕は店内に入った。
店員さんは「いらっしゃいませ！！」と威勢よく声を発してくれたが、
店の奥で何か作業をしているらしく、店内は僕一人。
BGMには、有線放送らしきポップな音楽が流れている。
新しい洒落たパン屋というより、
“昔ながらのパン屋”が何故か新しくオープン、みたいなことになっている。
こういう感じ、けっこう好き。
入口横に積み重なっているトレイを一枚取り、
その上にズラリと並んだトングを１本手に取る。
僕はトングをパクパクと動かしながら、
店内のパンを眺める。どれにしようかな…
外に貼ってあるポップの通り、
店内のパンはどれもこれも激安だった。
カレーパンも１０円だし、サンドイッチも１５円～２５円程度。
かと言って“１０円まんじゅう”みたいなミニサイズ！というわけでもなく、
普通のサイズのパンばかりだった。なんでこんなに安いんだろう。
安過ぎて不安になるぐらいの価格設定だ。
でもまあ、とりあえず買って、食べてみよう。
文句はそれからだ。
レーズン食パン、フランスパン、カレーパン（辛口）、
メロンパン、あんドーナツ（こしあん）をトレイに乗せると、
レジにトレイとトングを置いた。
これ、全部足しても１００円に満たないぐらいの計算になる。
普通のパン屋で買えば７５０円にはなるだろう。
店員さんは製造作業と販売作業を一人でやっているらしく、
「すみませーん」
と僕が店の奥に声をかけると、
「あ、ごめんなさいねー。いまいきまーす」
と、のんびりした返事が帰って来た。
おじさんが手をフキフキやってきて、
除菌スプレーみたいなのを両手にシュッシュとやると、
僕が選んだパンを袋に入れ始めた。
「えーっと、レーズン、フランス、カレー、メロン、アンドー…」
パンを袋に入れつつ、ぶつぶつ言いながらレジを打っていくおじさん。
「ドア、トング、トレイ、レジ、電気…っと」
ん？ドア？電気？なんだろ？
おじさんは僕が選んだパンの個数より明らかに多い回数のレジを打った。
「お会計、７５０円になりまーす」
あれ…おかしいな…？
表示価格より会計金額が高過ぎる。
疑問に思いながらも、僕は千円札を出しながら、
「これ、表示価格より高くないですか？」
と、念のためおじさんに聞いてみた。
「あ、ごめんねー。パン以外にもね、色々かかるからさ。
はい、２５０円のお釣りとレシートね。ありがとうございました～」
おじさんがものすごくニコニコしているので、
僕はそれ以上何も言えずに、パンとお釣りとレシートを手に、店を出た。
メロンパンをかじりながら家に帰った。
なんだこれは。ものすごくおいしい。
パン生地がしっとりふわっとしていて、
ザクっとしたほどよい甘味のクッキー生地が、その表面を覆っている。
絶妙～～～！！！！
帰宅してレシートを見てみた。
やたら長い。
レーズン食パン ￥25
フランスパン ￥15
カレーパン（辛） ￥10
メロンパン ￥10
アンドーナツ（こし） ￥10
自動ドア作動費 ￥100
トングレンタル代 ￥100
トレイレンタル代 ￥100
照明設備代 ￥100
レジ作動代 ￥100
パン袋@20 ￥100
手提げ袋 ￥80
パンの代金は表示価格通りだが、
それ以外に経費がやたらかかってるー！
なんだこれー！！
と思ったけれど、メロンパン以外のパンも、どれもこれもメチャクチャうまいのである。
このクオリティーで７５０円は妥当な値段！
っていうか、逆にちょっと安いぐらい！！
オシャレなパン屋さんで買ったら千円以上する！！
それに、あのおじさんのスマイル。
文句を言いに行く気になんてならない。
僕は、このパン屋さんのファンになった。