【お芋文庫】「0314」

むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
おじいさんは山に芝刈りに、おばあさんは川に洗濯に行くのが当時の流行スタイルでしたが、
はやりものが嫌いなそのおじいさんは、町に買い物に出かけました。

今日は3月14日。
先月、おばあさんがチョコレイトという、
カカオを砂糖で煮詰めたものをプレゼントしてくれてから、丁度1ヶ月が過ぎました。

最初は『こんな茶色くて固い食べ物、歯に悪いに違いない・・・』と思ったおじいさんでしたが、
ひとかけら口に含んでみると、ほろ苦くてふわっと甘く、
口の中でとろけてゆく魔法のような味わいに、たいそうビックリしたものでした。

「あんなに美味しい食べ物、きっと高かったに違いない。ワシも何かばあさんにプレゼントしなけりゃあ・・・」
そんな思いで、おじいさんは買い物に出かけたのでした。

おじいさんが目をつけたのは、
先月オープンしたばかりの“ショップ99”という高級ブランドショップでした。
なんと、店内の商品全てが99円という、超高級品を扱うお店なのです。
月々の収入が10円~15円だったおじいさんにとっては、
約半年分の月収を使ってしまうことになります。
でも、あのチョコレイトという食べ物も、きっと高かったに違いないのです。

ショップ99には、何でもとり揃っていました。
野菜や果物の生鮮食品から、帳面や手ぬぐいなどの日用品まで、
様々なものが並んでいます。
そんな中、おじいさんが目をつけたのは『アイスクリン』という食べ物でした。
はやりものが嫌いなおじいさんでしたが、ハイカラなものは大好きなのでした。
なんと、この食べ物は凍っているのだそうです。
「こんな珍しい食べもの、きっとばあさんが食べたらビックリするぞお!!」
おじいさんは意を決してアイスクリンを購入し、川で洗濯しているであろうおばあさんの元に駆けつけました。

「ばあさんばあさん、これ、先月もらったチョコレイトのお礼。
アイスクリンという食べ物じゃ・・・。
お、おタミさん。ぼ、ぼくと、け・・・、けっこんしてください。。」
おじいさんは、勢い余って今までずっと言えなかったプロポーズまでしてしまいました。
おじいさんとおばあさんは長年一緒に暮らしていましたが、まだ結婚はしていなかったのです。
「まあ、おじいさん、こんな珍しい食べ物をありがとう。
でも私はおじいさんとは結婚できないの。
おじいさんの苗字は”オリタ”。私の名前は”タミ”。折り畳みなんて、いやなの!」
おじいさんのプロポーズは、あっさり断られました。
しかし、アイスクリンを食べたおばあさんは、その美味しさにとても驚きました。
冷たくって甘くって美味しい!!
あまりの衝撃に、おばあさんは千代子という名前に改名し、
おじいさんと結婚して幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。