【お芋文庫】「ころころハウス」

小さな小さな家を建てた。
家とは呼べないかもしれない。
人はこれを「物置」と呼ぶかもしれない。
それでも僕はこの物置みたいな建築物を
“マイホーム”と呼ぶことにした。

僕のマイホームは、山にある。
ある日僕は山仕事がひと段落して
マイホームで紅茶を飲んで休憩をしていた。
そのうち眠くなり、うとうととうたた寝をしてしまった。

ミシミシという音で目が覚めた。
なんと、僕の家が傾いている!
「ミシミシ」なんて
かわいらしい擬音では足りないぐらいすごい音がして、
やがて立っていられないほどの傾きになった。

「うわあ!」
ズシーン!!!

大きな振動とともに、マイホームは横転した。
どうにかドアに辿り着き、外に出てみる。

すると。
マイホームの下から大きなタケノコが生えていて、
そいつがニョキニョキ伸びてマイホームを下からぐいぐい押し、
横転、ということになったらしかった。

明日業者を呼んでどうにかしよう。と思い
横転したマイホームをそのままに、
僕は実家に一時避難した。

次の日。
マイホームの様子を見に行った。
横転したマイホームは、更にタケノコ攻撃に遭ったようで
もう一回横転していた。
つまり、最初の状態から、“まっさかさま”
という状態だった。

中の様子が気になるので、
さかさまになったマイホームのドアによじ登り
どうにかして中に入った。
机や椅子が無事かどうか確認していると、
昨日と同じミシミシ音がし始めた。

「うわ!まただ!」
僕はよろめいて尻もちをついた。
ズズーン!
マイホームはまたしても転がった。

もう一回、転がるまで待とう。と、
マイホームの中でじっとしていた。
翌朝には元の状態に戻っていたが、
僕がマイホームを建てた位置から
だいぶズレていた。
一回転したのだから仕方がない。

ちょっと不便な時もあるけど、
割とスリリングでエキサイティングで楽しいので
タケノコに転がされながら
僕は転がるマイホームで末永く暮らした。