【お芋文庫】「巨大な目玉焼き」

ある日、巨大な目玉焼きが町の広場に落っこちてきた。
地面に落ちる瞬間、町中に“ばふっ”と大きな風が巻き起こった。
町の人々は広場に落っこちた巨大な目玉焼きを見に行った。
きっと東京ドーム何個分かの大きさだったけれど、
その町の人々は東京ドームというものを知らなかったので
そういう表現では言い表せなかった。

とにかく、ものすごくデカイ。
真っ白な白身部分の遥か向こうに、黄身の部分がぷるんとあるのが見える。
半熟っぽい色をしている。
町長さんの指示で
みんなで周りから少しずつ食べましょうということになった。
各自おうちから鍋や皿を持ってきて
必要な量だけ切り分けて持ち帰り、食べた。
黄身の部分までがかなり遠く、白身ばかり食べる日々が続いた。
何日もかけて少しずつ食べているので、
途中で腐ってしまうかと心配されたが、
不思議と腐ることなく、いつまでも美味しく食べることができた。
町の人々は最初は喜んで巨大な目玉焼きを食べていたが、
だんだん飽きてきたらしく、消費量が減ってしまった。
黄身まであと少しなのに・・・

そこに遠い国からやってきた大食いの勇者が通りかかり、
残った目玉焼きを全部食べてみせましょう!と宣言した。
町の人々は喜び、勇者が残りの目玉焼きを全てたいらげる様子を見守った。
勇者の食べっぷりは、想像を上回るほどのものだった。
そしてついに、勇者は黄身の部分に辿り着き、
腰にさしてある剣を抜くと、ぷるんとした黄身に切りかかった。
ぶしゃあ!
やっぱり、半熟だった。
黄身がどろりと勇者を飲み混む。
「熱風を送り込むのじゃ!」
町長が叫んだ。
町の人々は家からチャッカマンやバーナーや
火炎放射器なんかを持ち出して来て
半熟の黄身に向けて放った。
黄身は焼かれ、勇者を飲みこんだまま固まった。
黄身にまみれた勇者はどうにか自力で黄身の中から生還し、
巨大な目玉焼きはどこからやってきたのかを調べる旅に出た。
勇者は旅に出たまま、その町に戻ってくることはなかったし、
町の人々もしばらくしたら巨大目玉焼きのことは忘れてしまった。

天文学者が、「そういえばあの巨大目玉焼き落下事件以降
割と近くにあった小さな星が見当たらない」と言っていた。
「あれは星だったのかもしれない。」
と、その町の人々は噂しあったんだとか。