【お芋文庫】「アンブレな奴ら」

傘が雨の日のアイテムだったのは、今や昔の話である。
紫外線を気にする女性が日傘をさすようになり、
晴れの日のアイテムにもなった。
そして最近、雨の日でも日差しが強い日でもないのに
傘をさす者が増えているという。
従来、傘というものは
頭上からの落下物(雨や雪や日差し)から
身を守るためのものだったが、
近頃の人々は自分の体から発するものが
空に逃げていくのを防ぐために傘をさしているらしいのだ。
言葉や溜息や口ずさんだ歌に含まれる成分。
それらが空に昇って行ってしまわないように、
傘をさすことによって傘の内側に留めておくそうなのである。
メジャーなのは“溜息をつくと幸せが逃げる”というやつ。
傘をさしていると、傘の内側に、ため息に含まれる幸せが留まり
空に逃げるのを防いでくれるらしい。
一方、言葉を発した際に出る成分というのは実に多種多様で
いいものわるいもの色んなものがあるらしいけれど
機能の良い傘を持てば、いい成分だけを傘の内側に留めさせ
わるい成分のみ濾過して空に逃がすことができるらしい。
口ずさんだ歌に含まれる成分は、ストレスの類が多いので
大いに空に逃がしてしまって良いのだけれども
ごく稀にひらめきのヒントなどが、
ストレス成分に紛れて歌に交じってしまうことがあるらしく
それが逃げるのを傘で防ぐらしい。
皆、屋内に入る際、頭が入るぐらいの幅にすぼめた傘の中で深呼吸を繰り返し、
傘の内側に溜まったものを体内に取り入れてから傘を閉じる。
その様子を最初に見た時はとても異様に見えたが、割と気にならなくなった。
そんな風にいつでも傘をさす文化が流行したのだが、
この流行の火付け役は、
JR原宿駅の山手線ホームから雨の日の竹下通りを見下ろすと
色とりどりの傘がうごめいていてとても綺麗だったので感動し、
雨の日以外も見られたらいいなと思って発案したんだとか。
ということなので、信憑性に欠けるブームである。