【お芋文庫】ニノミヤゴンザブロウの事件簿(改)

あるところに、にのみや家という、ごく平凡な一家がいた。
にのみや家の長男ゴンザブロウは、ひどく駄目なやつだった。
そんな駄目なやつが思いつきで探偵を始めたのだが、
全ての事件が迷宮入り!という前代未聞の迷探偵であった。
一方、にのみや家の次男ぎんざぶろうは、シッカリ者。
幼いころから駄目な兄を見て、自分なりに色々と学んだようだ。
でも、ぎんざぶろうは、そんな駄目なゴンザブロウ兄さんの事が大好きだった。
心やさしいぎんざぶろうは決意した。駄目な兄さんをほっとけない!

二人の兄弟はそれぞれに探偵事務所を始めるのだが
二つの事務所は切っても切れない関係がある。
その絶妙な関係性を、まとめて書き記したのが
この『ニノミヤゴンザブロウの事件簿(改)』である。

平成7年4月1日
【兄・ニノゴン】
今までプー太郎だったニノミヤゴンザブロウ(通称ニノゴン)が、
ちょっとしたヒラメキで探偵事務所を開きました!!
…という事をたくさんの知り合いに話まくり、
数時間後「さっきの話は嘘です」と電話をかけた。
だって今日はエイプリルフールだったんだもの…。

【弟・にのぎん】
プー太郎だったゴンザブロウ兄さんから、電話が来た。
「ちょっとしたヒラメキで探偵事務所を作った」
という話だった。
兄さん、すごいじゃん!と思った。
僕も見習おう!と思い、何か始めたくなって、
とりあえず家の外に飛び出した。
母さんは、僕を止めようとはしなかった。
すぐに帰って来ると思ったのだろう。
フフフ。僕はもう子供じゃないぜ。

と、強気に家出をしたのだが、
夕方になって外が暗くなってきたら寂しくなってきて、
結局家に帰ってしまった。
帰宅すると、兄さんから
「さっきのはウソです」というメッセージが
留守番電話に入っていた。
とてもショックだった。
エイプリルフールだからといって、そんな嘘をついちゃいけない。
僕は、とても深く傷ついた。

平成7年4月2日
【兄・ニノゴン】
今日は、本当に探偵事務所を始めた。
しかし、知り合い達は誰も信じてくれなかった。
探偵を始めてから1つ目の依頼が来た。
母親からの電話だった。
「うちのバカ息子が探偵を始めてしまい、どうしたらいいか…」
とのことだった。
俺は
「うちは探偵事務所であって、人生相談室ではありません」
と静かに言って、電話を切った。

【弟・にのぎん】
母さんが兄さんのところに電話をしていた。
どうやら兄さんはホントウに探偵事務所を始めたらしい。
カッコイイ!兄さん、カッコよすぎるよ!僕は感動した!
エイプリルフールに嘘ついてサイテーなヤツだと思ったら、
次の日からそれかい!なんてカッコイイスタートなんだ!!
きっと兄さんの探偵事務所はうまくいくよ!
心の傷が一瞬で治った。
僕って立ち直りが早いな。

平成7年4月3日
【弟・にのぎん】
僕も探偵事務所を開くことにした。
兄さんの探偵事務所が「ニノミヤゴンザブロウ探偵事務所」という名前なので
僕は「にのみやぎんざぶろう探偵事務所」という名前にした。
でも、この事はみんなにはナイショ。
みんなに言ったら、きっと
「ぎんざぶろうは、いつも兄さんのマネして…」
って言われる。
とりあえず探偵日誌をつけておくことにした。
4月1日からの日誌もつけてみた。
おとといの事なのに、思いだすのがタイヘンだった。

平成7年4月4日
【弟・にのぎん】
早速事件だ。
ナント、この探偵事務所を手伝いたい、という
おじいさんが現れた。
僕は「このおじいさん、頭大丈夫かな?」と思った。
心の中で思っただけなのに、まるで僕の心を見透かしたかのように
「ダイジョウブぢゃ」と言い張るので、
手伝ってもらうことにした。
僕はおじいさんに『じっちゃん』というあだ名をつけた。
かわいくっていいカンジだな。

平成7年4月5日
【弟・にのぎん】
じっちゃんがお花見に連れていってくれた。
僕がサクラを見ながら
「何か事件でもおこらないかなあ」
と言ったら、じっちゃんは
「事件なんかおこらないほうがいい」
と行った。
やっぱりこのおじいさんはちょっとオカシイみたいだ。
探偵事務所は事件がなくちゃ意味がないのに。
何の為に来たんだ?このじいさん・・・。
僕はちょっと、にのみやぎんざぶろう探偵事務所の未来が不安になってきた。

平成7年4月25日
【弟・にのぎん】
じっちゃんがいい事を思いついた。
あまりにも事件が起こらないので、じっちゃんが事件をおこして、
僕が解決しよう、という話になった。
これなら、にのみやぎんざぶろう探偵事務所も大活躍だ。

早速事件開始。
まずは、近所のスーパーマーケットでじっちゃんが万引きするフリをした。
僕がじっちゃんを追いかける。
そしてキメゼリフ『犯人は、じっちゃんだっ!』
と叫ぶ。うん、カッコイイ。
金田一少年の事件簿っぽいな、と思った。
僕はそんな事を考えながら、万引きするフリしたじっちゃんを必死に追いかけた。
今日はとっても充実した一日だった。
事件が起こって、解決した。
なんてスバラシイんだろう。
この探偵事務所をはじめて良かった。
今日はあいにくの雨降りだったけど、僕にはキレイな青空に見えた。
じっちゃんは、
「青空になんて見えない」と言った。
サミシイ人だ。

平成7年8月23日
【兄・ニノゴン】
忙しさにかまけて、ずっと日誌をつけるのを忘れていた。
13個目の依頼がきた。
『うちのポチがいなくなったので探して欲しい』とのこと。
早速探しに行ったが、現場に着いてから大事な事に気がついた。
「ポチって犬?鳥?アヒル?ナマケモノ?芸能人?
聞くの忘れちゃったぁ。
相手の連絡先聞くのも忘れたし、この事件は迷宮入りだな・・・」
と呟いて事務所に戻り、
日誌に【未解決事件】というハンコをバシン!と押した。
うわー!ドラマっぽーい!俺カッコイーーー!!!
と、しばしウットリした。

【弟・にのぎん】
ずっとずっと日記をつけ忘れていた。
あまりにも事件が起こらなくて、毎日じっちゃんと鬼ごっこをしていたんだ。
…いや、鬼ごっこじゃなかった。
じっちゃんが事件を起こして僕が解決する、立派な任務だ。
さて、ついに僕の探偵事務所にも依頼が来た。
依頼人は、ニノミヤゴンザブロウ探偵事務所に頼んだのだが、
迷宮入りにされてしまったので、改めて依頼しなおしたい、とのこと。
愛犬ポチを探す、という仕事だった。
僕はいつものようにキメゼリフ「犯人は、じっちゃんだ!」と叫んだ。
でも、残念ながら犯人はじっちゃんではない。
僕は現実のキビシサを知った。
じっちゃんと地道に町中を探した。
いつもじっちゃんを追いかけまわしているので、
この町の狭い路地などにめっぽう詳しい僕ら。
“この町のスラム街”と呼ばれている裏通りを探している時、
遂にポチを見つけた。
依頼主からお菓子とお金をもらった。うれしかった。

平成7年8月31日
【弟・にのぎん】
夏休み最終日。
じっちゃんが「せっかくだから夏らしいことしよう」と言うので
たくさんの人が賑わうビーチに出かけた。
じっちゃんは、ビキニ姿のお姉さんばかり見ていた。
僕はワカメやコンブを拾うのに夢中だった。
二人とも、海には一歩も入らなかった。

平成7年8月32日
【弟・にのぎん】
8月32日、なんて、こんな日があったらイイだろうな。
宿題を片付ける予備日だ。
あるワケないんだけど、あったらイイナと思ったので、
夏休みの日記に書いてみた。
今年も宿題は終わらなかった。
こんな日記を書いている場合じゃないんだよなぁ。
僕は探偵だし、忙しいんだ。
宿題なんてしているヒマは無いのさ。

平成7年9月25日
【兄・ニノゴン】
34個目の依頼。
『某デパートの紳士服売り場で購入したスーツの丈が、
注文と全然違う仕上がりで、着られない。
裾も袖も20センチ以上長く、どう見ても布が足してある。訴えたい』
との依頼。
実際にスーツを見せてもらうと、依頼人の言うとおりの仕上がりになっていた。
「見た目で判断するのはイケナイ」と思った俺は、
ちょっと着させてもらった。…本当にズルズルだった。
そこで、実家の押し入れで長年眠っていた、
愛用の『ぶら下がり健康器』を依頼人にプレゼント。
かわいらしいメッセージカードに
“20センチなんて、すぐ伸びるよ”
と書き添え、着払いで送った。
何故か依頼人は憤怒の表情で鍬を持って事務所にやってきた。
走って逃げて、事なきを得た。

【弟・にのぎん】
依頼が来た。また、兄さんの探偵事務所で未解決になった事件が回ってきた。
「兄さん、何やってるんだろう。しっかりしてくれよ…」
と呟きながら、現場に向かう僕。
依頼人の話を聞くと、紳士服の仕立てがオカシイ、というだけだった。
注文よりも20センチ長すぎるのだそうだ。
「そんなもの、チョチョイのチョイぢゃ」と、
じっちゃんが上手に仕立て直してくれた。
依頼人はものすごく喜んでくれた。
お礼に、またお菓子をもらった。
お菓子ばっかりもらっていると健康に悪いので、
お野菜とかくれたらイイのに、と思った。
じっちゃんも糖尿病を気にしているんだ。
頼むよ、依頼人のみなさん。

平成7年11月11日
【兄・ニノゴン】
今日は、待ちに待った11月11日。
『1』が四つ揃ったので、嬉しくて1人でパーティーをした。
……寂しかった。

平成7年11月12日
【兄・ニノゴン】
昨日寂しかったので、町に繰り出し、助手になってくれる人を探した。
できれば女の人がいい。いいに決まってる。
道行く女性に手当たり次第に声をかけて行った。
立ち止まってくれる人もほとんど居ない。
12月の冷たい風が、嫌がらせのように吹きつけてくる。
今は11月だってのに、なぜだか12月の風が吹きつけてくるのだ。
世間は俺に対してとても厳しい。つらい。つらい…。
日も暮れかかり、誰も足を止めてくれない世知辛さに泣きそうになっていた時、
奇跡的に一人の女性が足を止めた。
やっぱり、この世には女神って居るもんなんだなあ、と思った。
彼女の名は、常怒(ツネド)君と言った。
ツネド君は、読んで字のごとく、常に怒っている。

【弟・にのぎん】
じっちゃんと追いかけっこして遊んでいたら、
街角でゴンザブロウ兄さんを見つけた。
兄さんは必死に道行く人に
「探偵やってます!助手になって下さい!!」
と叫びながら直角に折れ曲がり、右手を差し出していた。
まるで「第一印象から決めてました!」みたいな勢いでアタックしていた。
ちょっと近寄りがたい形相だったので、
僕とじっちゃんは少し距離をおいて兄さんを見守った。
どうやら、探偵事務所の助手が欲しいみたいだ。
僕は幸運にも探偵事務所を始めてすぐに、
じっちゃんという素晴らしい仲間が出来た。
兄さんは、一人ぼっちで頑張っていたみたいで、ちょっと可哀想。
僕はハローワークに行って仕事を探しているお姉さんに声をかけ、
『探偵をやっている兄さんの助手になってもらえないか』とお願いした。
じっちゃんが昨日競馬で儲かったので、お金も渡した。
そのお姉さんは承諾してくれた。
やっぱり世の中は、金か。金なのか。

平成7年12月25日
【兄・ニノゴン】
今まで一人ぼっちだったクリスマス、
今年も結局一人ぼっちだった。
パーティー好きの俺は、数か月前から予約しておいた
チキンバーレルを抱えて事務所に行くと、
ツネド君が見た事もないようなドレッシーな服を着て出かけて行った。
きっとデートだろう。
「何の為にツネド君を雇ったんだ?これでは意味がない。寂しいよぅ・・・」
探偵事務所の片隅で、膝を抱えて一人でチキンを食べた。

【弟・にのぎん】
朝起きると、枕もとにプレゼントが置いてあった。
サンタさんだ!サンタさんが来てくれたんだ!
大喜びでプレゼントの包みを開けると“青竹踏み”が入っていた。
じっちゃんと毎朝青竹を踏むことにした。
サンタさん、渋いプレゼントをありがとうございます。

平成8年1月1日
【兄・ニノゴン】
寝正月。…のはずだったのに、依頼がきた。
62個目の依頼だった。
『駅前の文具屋で万引きがあった。犯人を探して欲しい』
とのこと。
俺は、クリスマスの傷心の事もあり、寝ていたかったので
「ほかの店で同じ商品を万引きして来たらいいだろう。
1億2千万回ぐらい万引きを繰り返せば、必ずいつか犯人にたどり着くはずだ。
こっちは寝正月なんだ!
こんな事、自分で考えればわかることだろう!?
いちいち電話してくるんじゃねえ!!」
と、ガツンと言ってやった。そして、ずっと寝てた。

【弟・にのぎん】
お正月番組を見ながら、おせちやお雑煮などを食べた。
ミカンでコタツを食べていると…じゃなかった。
コタツでミカンを食べていると、依頼が舞い込んできた。
「『舞妓が舞い込んできた』ってのはどうぢゃろう?」
じっちゃんが下らないダジャレを言っていたけど、
僕は無視して依頼人の元へ向かった。
駅前の文房具屋さんで、万引きがあったらしい。
依頼人のオバサンは、一度兄さんのトコロに電話したけど、
トンチンカンな事を叫ばれて一方的に電話を切られたとのこと。
僕は弟として何度も何度も頭を下げた。
何度も頭を下げていたら、棚の下にシャープペンシルが落ちているのを見つけた。
「あ、棚の下にシャープペンシルが落ちていますよ」
僕はそれを拾い上げてオバサンに渡した。
するとオバサンは、
「アラマ!万引きされたと思ったら、ココに落ちてたのね!
ごめんなさいねぇ~。私の勘違いだったみたい。
そうよね、元旦に文房具屋なんて開いてても、誰も来ないわよね。
そうよ、今日は一人もお客さんなんて来てないのよ。
なのに万引きが起こるわけないじゃないね!アッハッハ!アッハッハ!」
オバサンは手をたたきながら豪快に笑った。
そして、
「良かったらコレ、差し上げますわ」
そう言ってオバサンは僕たちにシャープペンシルをくれた。
じっちゃんはシャープペンシルを使った事がないらしい。
使い方を教えてあげたんだけど、
じっちゃんは老眼なのでシャーペンの芯が細すぎて見えないんだって。
なので、このシャーペンは僕が使う事にした。ラッキーだ。

平成8年3月21日
【兄・ニノゴン】
65個目の依頼だった。
『カゼをひいてしまったので医者に行きたいのだが、
高熱のために動けないので、病院に連れて行って欲しい』
との依頼だった。
俺ははりきってその依頼人を病院に送った。
“病院送り”にしたワケではない。病院に送ってあげたのだ。
病院に送ってあげるのと病院送りにするのとでは大きな違いだ。

ヨシ!事件解決!!
と、すがすがしい気分で事務所に戻ると、
ツネド君がコーヒーを淹れてくれて、
それを飲みながらタバコチョコをかじった。
俺はタバコは吸えないが、
探偵と言ったらコーヒーとタバコだ。
いつもタバコチョコか、ココアシガレットで気分を出している。
充実の一日だったな、と思いながら椅子にふんぞり帰り、ふと
「あ、さっき動物病院に連れてっちゃったかも。」
と思ったが、
「でもいいかぁ、人間も動物だし……」
この事実をうやむやにした。

【弟・にのぎん】
近所の動物病院の前を通りかかったら、
ものすごく酷い風邪をひいて高熱が出てフラフラになっている男性が居た。
きっと熱で頭が朦朧として、間違えて動物病院に来てしまったのだろう。
僕は、じっちゃんと二人がかりで、その男性を内科のある病院に運んだ。
その男性は、大手企業社長の御曹司だったらしく、
「あの日は爺やも婆やも留守にしていて、
とある探偵に病院に連れて行ってほしいと頼んだのだが、
ナゼか動物病院に連れていかれてしまったんだ。
本当に助かったよ。ありがとう」
と、後日、大金を持ってお礼に来てくれた。
僕は
「我々はただ、病院に連れて行ってさしあげただけです。
そんなお金は受け取れません」
と断ったが、それと同時に
「どうもありがとうございます」
と、じっちゃんが大金を受け取ってしまったので、
ちょっと気まずい空気が流れた。
じっちゃんは、金に目が無い。

平成8年5月3日
【兄・ニノゴン】
70個目の依頼。
五月病のせいで現実逃避したくなったA君。
某銭湯の煙突に登ったが、怖くて降りられなくなった。
A君の母から『息子を助けて欲しい』との依頼。
俺は持ち前の運動神経でスルスルと煙突に登り、A君に
『現実も楽しいもんだよ』というタイトルで自分の人生を語り、
いいことしたーーーッッ!!という気分で帰ってきた。
が、しかしA君は煙突から降りられないままだったらしい。
そうか、現実逃避を解決するんじゃなくて、
煙突から降りられない事を解決しなきゃいけなかったのか。
いっけねー!てっへへー!

【弟・にのぎん】
依頼が来た。兄さんの事務所の未解決事件だ。
五月病で現実逃避したくなって銭湯の煙突に登ったものの、
降りられなくなってしまったA君を救出する、という依頼内容だ。
兄さんはひたすらA君に話しかけるだけで、
煙突から下ろしてあげるのを忘れてしまったみたい。
ひとつの事に夢中になると、つい周りが見えなくなってしまう兄さん…。
僕は現場にかけつけた。
だけど、実は僕も高所恐怖症なんだ。
そんな僕を押しのけ、じっちゃんが果敢に銭湯の煙突に登っていく。
スルスルと煙突のてっぺんまで登ると、
じっちゃんはA君を背負って降りてきた。
カッコイイ、カッコイイよ、じっちゃん!
僕は映画のワンシーンを見ているような気分になった。

平成8年7月13日
【兄・ニノゴン】
88個目の依頼は、米屋さんからの依頼だった。
持病の悪い癖が出てしまい
「88個目だけに、八十八夜で米!88個目だけに、八十八夜で米!」
と、繰り返し依頼人に叫んでしまった。
しかし依頼人には無視された。
「依頼の件なんですけど、深夜に米泥棒が度々入るので、
捕まえてほしいんです。」
と、涙目で訴える依頼人。しかし
「88個目だけに、八十八夜で米!……」」
さっきの発作が止まらなくなってしまった。
結局、ツネド君が迎えに来てくれた。
そして依頼人にもひたすら謝ってくれた。
事務所に帰ると、熱いコーヒーまで淹れてくれた。
何から何まですまない、ツネド君。ありがとう。

平成8年7月14日
【兄・ニノゴン】
昨日の88個目の依頼を、89個目の依頼ということにした。
これでもう発作は大丈夫だろう。俺はゾロ目に弱い。
米泥棒の件だが、俺が深夜の米倉庫で張り込みをしていたところ、
泥棒っぽい人がコソコソとやって来た。
不審に思った俺は、後先を考えずにとりあえず「コソ泥だ!」と叫んだ。
するとコソ泥は、
「おお!ニノミヤぁ!ニノミヤじゃないかあ!」
と、ニコニコしながら近寄って来た。
…小学校の時の担任の先生だった。
懐かしい話をたくさんして、夜が明けた。

平成8年7月15日
【兄・ニノゴン】
夜明けまで語らった後、先生は、
『泥棒から足を洗う』と約束し、逃げるように去って行った。
依頼人には、先生の事は隠した。
「泥棒が来たけど、やっつけました。ニノゴンビームで。あっはっは」
とか何とか言いながらごまかした。
俺は先生を信じている。この事件は解決した。

【弟・にのぎん】
米屋さんから依頼が来た。
米泥棒が出たらしい。
兄さんの探偵事務所に依頼したら、
泥棒を追い払っただけで捕まえてもらえなかったのだそうだ…。
犯人を捕まえるべく、夜の倉庫の中で、
息をひそめてじっちゃんとニラメッコをして遊んでいた。

すると……米泥棒らしき人がやってきた。
倉庫内に忍び込もうとしたところを、
じっちゃんと二人がかりで捕まえた!ヤッタ!成功だ!
と思ったら、お米屋のおじちゃんだった。
僕らに夜食を持ってきてくれたらしい。申し訳ないことをした。
ほかほかのオニギリをもらったので、
オニギリを食べながらニラメッコの続きをしていると、
遂に本物の米泥棒が現れた。

「あれ?にのみや?にのみやの弟じゃないかあ!」
米泥棒は突然そんな事を言いながら僕に近づいてきた。
米泥棒の正体は、兄さんの小学校の頃の担任の先生だった。
「あ、先生…?」
と僕は先生に話しかけようとしたのだが、
じっちゃんは有無を言わさず近くにあった麻袋を先生にかぶせた。
紐でぐるぐるに縛って逃げられないようにした後、話を聞くと
先生は、3年前に仕事を辞め、米泥棒になったのだと言う。
人生、どこでどんな転職をするかワカラナイものだな、と思った。
じっちゃんと二人で、先生の米泥棒ライフについて話を聞きながら、
警察まで連れて行った。
うーん……世の中、米か。米なのか。

平成8年8月10日
【兄・ニノゴン】
夏まっさかり、92個目の依頼が来た。
海苔工場の人からの依頼だった。
『いつも海藻を採集している岩場に、何やらあやしい白いモコモコしたものが
水面に浮いているので調べて欲しい』とのこと。
ツネド君と一緒に事件現場へと向かった。
ところが歩いて向かったので、着いた時には日が暮れて、
依頼人も待ちくたびれて帰ってしまっていた。
ツネド君と一緒に浜辺にテントをはり、キャンプをして過ごした。楽しかった。

【弟・にのぎん】
今年も夏が来た。じっちゃんと海水浴に出かけた。
去年はビキニやコンブやワカメに気を取られて海に入らなかった僕らも、
今年は結構遠くの沖の方まで遠泳をした。
途中の無人島で休憩をして、再び海水浴場に向かって泳ぎ始めた。
すると……コンブやワカメがいっぱい採れそうな岩場に、
何やら白くてモコモコとした怪しいものが浮いていた。
「じっちゃん、アレは何だろう?」
「んー?アレか?アレは……なんじゃろう?良く見えんなあ。」
僕らは不思議な物体に近寄って、勇気を出して手に取ってみた。
良く見てみると、じっちゃんのモモヒキだった。
着替えを砂浜のビーチパラソルの下に置いておいたのだが、
風に飛ばされ、ここまで流されたらしい。
空気が入ってモコモコに見えたんだ。
「オォ!ワシのステテコがぁ!!」
モモヒキではなく、ステテコだったようだ。
『帰りに履いていくステテコが無い』と
じっちゃんは嘆いていたけれど、
マイステテコが海を彷徨ってどこか遠くの国へ行ってしまったりしなかったのだから、
良かったじゃないか!と励ました。

平成8年8月11日
【兄・ニノゴン】
朝起きてすぐに依頼人の家に行ったところ、
「車とか電車とか何か交通手段があるだろう!?
歩いて来るバカがいるか!
小学生の遠足じゃあるまいし!!」
と、こっぴどく怒られた。
俺もツネド君も遠足気分で海に来たので、
この言葉にはカチンときた。
とうとうこの日も『依頼人VSニノミヤゴンザブロウ探偵事務所』の
ケンカで一日が終わってしまった。

平成8年8月12日
【兄・ニノゴン】
海でのキャンプ生活も、もう三日目。ホームシックにかかってしまった。
はやくおうちにかえりたい・・・という一心で
「いい加減ケンカはやめましょう!」と
依頼人の家に謝りに行ったところ、すんなりと和解。
ようやく事件の調査をすることになった。
依頼人が現場までボートで連れてってくれたのだが、
水面に浮いていたナゾの物体はもうなかった。
三日も経てば、無いのは当たり前だ。
ホームシーックの症状が酷くなり、俺は泣きだしてしまった。
ツネド君に手を引かれ、探偵事務所に帰った。

平成8年10月10日
【兄・ニノゴン】
体育の日だったので、ツネド君とスポーツをした。
ハネツキ、反復横飛び、タップダンス、などなど。
とても楽しい1日だった。
ところが帰りがけ、事件が起こってしまった。
101個目の依頼である。
『今、泥棒が家の中に入って来た。まだ中に居るようなので、捕まえて欲しい』
とのこと。
ドキドキしながら依頼人の家の中に入ると、
泥棒が金目の物を探してうろうろしていた。
俺もとりあえず泥棒と一緒になってうろうろしてみた。
するとテレビで俺が大好きなメロドラマが始まり、
思わず見入ってしまった。
メロドラマを見ているうちに、泥棒は金目のものを持ってスタコラと逃げた。
「ドラマすごい面白かったー!」
と気付けば泥棒も居ないし金目の物も無いし、
ツネド君にメッチャ怒られた後に、依頼人からも怒られた。
みんな怖かった。
でもドラマが面白かったから、ヨシ。

【弟・にのぎん】
じっちゃんと、「運動会がしたいね!」という話になった。
なので、運動会をしている幼稚園や学校を探して、
片っぱしから勝手に参加した。
綱引きや、玉入れなど、人がゴチャゴチャしている競技だと、
僕らが混じっていても案外バレないんだ。
これは名案だった。
いい汗をかいて事務所に戻ると、泥棒退治の依頼が来ていた。
今回もまた、兄さんの事務所で逃がした泥棒らしい。
コレは一度、兄さんにガツンと言わなきゃなぁ、と思ったけれど、
言ってしまうと“兄さんが失敗した依頼”がウチに回ってこなくなるかもしれないので、
言わないでおくことにした。
今回の犯人は、金目の物を盗んだらしい。
じっちゃんが金属探知機を持っていたので、それを使った。
探知機を持って待ちをウロウロしていたら、突然、探知機が過剰反応を示した。
一人の男を指している。恐る恐る近づいて行ってみると……
かつて米泥棒をしていた、先生だった。
「お前!金目の物を盗んだぢゃろ!?」
じっちゃんが、先生に掴みかかる。
どうやら先生は脱獄し、米泥棒から金目の物泥棒に転職したのだそうだ。
先生を警察に連れていきながら、いろんな話を聞いた。
そうか、やっぱり、世の中は米ではなく、金だったのですね、先生…。

平成8年11月11日
【兄・ニノゴン】
今年も『1』が四つ揃ったので、パーティーをした。
今年はツネド君もいたので、二人でパーティーができたので寂しくはなかった。
しかし、俺は気付いた。
この『1』が四つのパーティーって、何人でやったとしても、けっこうムナシイ・・・と。
それでもやっぱり平成11年11月11日は盛大にパーティーをしたい。

平成8年12月31日
【兄・ニノゴン】
家で大掃除をしていたTさん。
押し入れの奥から出てきた夫の日記を見て激怒。
そのまま口論からプロレス並みのケンカになり、
勢いあまってTさんが壁に激突。
壁に大きな穴が空いてしまった。
『壁に空いた穴を塞いで欲しい』との依頼であった。
126個目の依頼だ。
日曜大工・パパはりきり工具セットを持って現場へと向かった。
穴の具合を調べていたら、上半身が穴にはまってしまい、
身動きがとれなくなってしまった。
ツネド君、Tさん、Tさんの夫の三人で
“大きなかぶ”のように力いっぱい引っ張ってくれたが、びくともしない。
仕方なくプロの工事屋さんに来てもらい、救出してもらった。
結局、俺のせいで穴が元の大きさよりも大きくなってしまっただけだった。
その穴は工事屋さんが綺麗に直してくれて、事件解決。
そもそも、ウチは探偵事務所なのに壁の穴の修理を依頼してくるなんておかしな話だ。
今後はもっと仕事を選んで行かなきゃな、と考えながら
タバコチョコをかじる俺。

平成9年2月14日
【兄・ニノゴン】
バレンタインだ。
俺はドキドキしながら事務所の机でジっと待っていた。
待っているのはもちろん、バレンタインのチョコレートだ。
ツネド君は去年、それとなくチョコの話をそらしたが、
こうやって日々一緒に様々な仕事を乗り越えている仲間だ。
今年こそはくれるだろう、と俺は確信を持っていた。

俺はいつもドジでマヌケな探偵をめいっぱい演じているので、
ツネド君の母性本能をくすぐりまくっているハズなんだ!!
と、自信満々になるのだが、やはりちょっと不安にもなる。
もらえるかな…もらえるかな…。

そこへツネド君が何か素敵な包みを持って近寄って来た。
ニコニコしている。これは!もしや!?チョコ!?
「あ、ニノゴン、これ、チョコ。」
「やったぁ!!ありがとぉ!!!」
そう、俺は、遂に、生まれて初めてバレンタインチョコをもらった。
ワクワクしながら綺麗な包みをそぅっと開けてみる。

すると…ボロボロに叩き崩されたチョコが入っていた…。
必死にそのかけらたちを並べ、元の形を再現しようと試みると、
一枚のハート形になった。
ハートのチョコをこんなに砕いて渡してくるなんて。
義理チョコアピールはわかるけど、あからさますぎるよ、ツネド君…
嬉しかったけど、悲しかった。
しかし、ここでヘコんでは男が廃る。
俺は開き直ってツネド君に
「このチョコ、丁度いい大きさに切ってあって食べやすいよ。ありがとね。」
と感謝の気持ちを述べた。
決して「砕いてあって」とは言わず、「切ってあって」という言葉をチョイスする俺。
俺のハートは砕けない。

平成9年5月5日
【兄・ニノゴン】
だいぶ暖かい気候になり、冷たいジュースが美味しくなってきた子供の日の今日、
和歌山100%ミカンジュースをゴクゴク飲んでは夏ミカンをむいて食べ、
夏ミカンの皮を浮かべたミカン風呂に浸かり、
夜ごはんは食パンにオレンジマーマレイドを塗りたくって食べ、
俺の体が黄色くなってきた夜更けに、依頼が来た。
129個目の依頼だ。
『缶コーヒーの“つめた~い”を選んで買ったのに、
非常に熱いコーヒーが出てきた。
故障中の張り紙を貼って来たが、腹の虫がおさまらない。
どうにか潰したい。』
という依頼。“潰したい”というのは何を潰したいのだろうか。
自販機か、自販機の会社か、俺か?いや、そんなバカな。
なんだかわからないが、依頼人はとにかく怒っている様子。

依頼人の元に駆けつけた俺は、依頼人の肩をバシバシと叩き
「すごく熱いコーヒーだって、小一時間も放置しておけばスグに冷えるさ!
冷蔵庫にでも入れておけよ!ドンマイッッ!!」
と、声をかけてなぐさめた。
昨晩見た青春映画で、主人公が失恋した友達に
『時が経てば心の傷も癒えるさ』とか言ってなぐさめていたシーンを
できる限り再現したつもりだ。
「決まったぜ…」と思った俺は、怒られる前に走って逃げた。

【弟・にのぎん】
とても平和な日々が半年以上も続いた。
しかし、事件はある日突然に舞い込んできた。
「『舞妓になった舞子が舞い込んできた』っていうのはどうだろう?」
と、氷点下級に寒いギャグばかりを連発するじっちゃんを無視して、
僕は現場に向かった。

自動販売機が壊れていて、“つめた~い”を選んで買ったのに、
非常に熱いコーヒーが出てきたらしい。
僕は、ルーペを使って丹念に自動販売機を調べた。
うーん、探偵っぽいなぁ。と、探偵気分に酔いしれつつ調べていると、
自動販売機そのものが、ものすごい熱を持っている事に気がついた。
そこへじっちゃんが遅れて到着した。
「じっちゃん、この自動販売機、様子がおかしいんだ」
僕が事情を話すと、じっちゃんは
「そんなもの、チョチョイのチョイぢゃ」
と決めゼリフを言って、自動販売機を修理し始めた。すごいなぁ。
じっちゃんは、洋服の仕立てや機械の修理、
合コンのセッティングや忘年会の幹事など、
何でもこなしてしまうんだ。
『チョチョイのスーパーじっちゃん』というタイトルで
特撮ヒーローものにしたら、絶対人気が出ると思う。間違いない。

平成9年5月25日
【弟・にのぎん】
じっちゃんが最近、白衣を着て、
何やらビーカーや試験管やフラスコを扱っている。
何をしているのかはワカラナイ。
聞いても教えてくれないんだ。
僕は遊び相手が居なくてつまらなかったので、ずっと寝ていた。

平成9年5月28日
【弟・にのぎん】
三日三晩、寝ずに研究を繰り返していたじっちゃんが
「つ、遂に完成したゾォ!」
と大きな声で叫んだ。
僕はその声で目を覚まし、眠い目をこすりつつ、じっちゃんの部屋に行ってみた。
「おい!ぎんざぶろう!ついに完成じゃ!
瞬時にどんな傷でも治してしまう薬を発明したぞ!」
と言いながらフラスコに入った透明の液体を僕に掲げて見せた。
「いいか、コレを見ておれ」
僕がワケがわからないで居ると、じっちゃんは自分で自分の指先に
ナイフで傷をつけた。ぷくっと赤い血が出てくる。
じっちゃんは、フラスコに入っている透明な液体をその傷に垂らした。
「ほれ、見てみろ。傷跡も無いじゃろ?」
そう言われて、僕はじっちゃんの指先を見てみた。
本当だ!さっきナイフでつけた傷が、跡形も無く消えてる!
「スゴイ!すごい発明だね、じっちゃん!!」
僕とじっちゃんは手を取り合って喜んだ。
じっちゃんが発明した液体を、とりあえず何かフタのついた容器に
入れておこう!と、使い終わったウナコーワの容器に入れておいた。

平成9年6月2日
【兄・ニノゴン】
『ジューンブライド殺人事件』が発生。
俺は急いで現場に駆け付けた。
134個目の依頼である。
人だかりの中を、のしのし歩いて通り抜け、事件現場に到着した。
探偵ドラマや、探偵映画、探偵ナイトスクープを見て学んだ
“探偵っぽい歩き方”は、もうすっかりマスターしていた。

現場にはナイフで腹部を刺された新朗と、泣き崩れる新婦、
そして不安そうにおろおろする親族たちがいた。
犯人はまだわからないらしい。
「誰がこんなにヒドイ事を……」
そう呟きながら俺は新朗に近寄った。かなりの重症である。
「さされたら、早めに塗るのが、効くんです」
ボソっと俳句を呟きながら、おもむろにポケットから『ウナコーワ」を取りだし、
ナイフで刺された腹部に塗った。
…かなり怒られて追い出された。

【弟・にのぎん】
久しぶりに、兄さんに会いに行く事になった。
じっちゃんの素晴らしい発明を見て欲しかったからだ。
僕らはお土産にお菓子を買い、
ウナコーワの容器に入った発明液を持って
兄さんの探偵事務所を尋ねていった。
ところが……事務所に入ると、兄さんの助手のツネドさんが
「たった今、事件が起こったの!
ニノゴンは出かける準備をしているわ。
せっかく来て下さったのに、ごめんなさいね」
と言った。
とりあえず事務所にあがらせてもらうと、
ツネドさんは僕らにコーヒーを淹れてくれた。
ツネドさんにだけでも、
じっちゃんの発明をお見せしようとしたその時だった…
「ああ!ぎんざぶろう!ごめんな、兄さんちょっと事件なんだ!」
少しヘンテコな日本語を話しながら、兄さんが部屋から出てきた。
「じゃ、ツネド君、行ってくるから、後はヨロシク!
あー昨日さされた虫さされが痒いー!
スマン、このウナコーワ貸してくれ!後で買って返すから!」
ドタバタと兄さんはタバコチョコをくわえて事務所を飛び出して行った。
「それはウナコーワじゃないんぢゃ!」
と、じっちゃんは叫んだが、兄さんには全く聞こえていなかった。
「まぁ、虫さされも治してしまうと思うがな、あの薬は。ふぉふぉふぉ…」
ツネドさんにもじっちゃんの発明を見せられなかったので、
コーヒーだけ御馳走になり、今日のところは帰る事にした。

平成9年6月3日
【兄・ニノゴン】
警察から電話が来た。
昨日俺がウナコーワを塗ったおかげで、
腹部を刺された被害者の傷が跡形も無く消えた、とのこと。
表彰を受けた。
「へぇー、ウナコーワって虫さされだけじゃなく、
ナイフで刺された傷にも効くんだあ…」
被害者の傷は癒えたものの、犯人はわからずじまいで
『ジューンブライド殺人事件』は、迷宮入りとなった。

【弟・にのぎん】
昨日の事件で兄さんが大活躍したらしい。
でも、被害者の命を救っただけで、
犯人がまだ捕まっていないとのこと。
いつものパターンで僕の事務所に依頼が来た。
現場に居た人たちの話によると、
犯人は親族席に紛れ込んでいた中年の男だったと言う。
「それって……」
と顔を見合わせる僕とじっちゃん。
僕らには、犯人の目星がついていた。
いつもじっちゃんと追いかけっこやかくれんぼをする時のように、
僕らはひたすら町中を走り回って犯人を捜した。
すると……公園の砂場で、山を作って遊んでいる中年の男性を見つけた。
後姿から、それが誰なのかスグにわかった。先生だ。

近寄って先生の肩にポンと手を置くと、先生も薄ら笑いを浮かべ
「ごめん。もう二度とこんなことはしないよ。
僕は人に怪我をさせてしまった…」
と言って、素直に僕らに連れられるまま警察へと向かった。
金目の物泥棒で捕まった後も再び脱獄した先生は、
たまたま通りかかった結婚式場で素敵な花嫁さんを見て、
昔離婚して別れてしまった奥さんと娘さんの事を思い出してしまい、
その花嫁さんをさらおうとしてしまったそうだ。
犯行に及んだ際に、新朗に突き飛ばされたため、カッとなって刺してしまった…という事だった。
『もう二度と脱獄はしない。一生かけて罪を償います』
と、先生は誓ってくれた。

平成9年11月10日
【兄・ニノゴン】
150個目の依頼。
なにやら『ニノミヤ探偵事務所について取材させてほしい』という依頼だった。
快く引き受け、自分で作った事件簿を依頼人に渡し、
いろいろと今までの出来事をおもしろおかしく語ってみせた。
取材の後、お金と駄菓子をもらった。とてもいい依頼だった。
そういえば、この探偵事務所を始めてから、
初めて依頼がすんなりキレイに片付いた。
ツネド君も喜んでくれた。
これからもがんばって行こう!と、ちょっぴり勇気の鈴が鳴った。

【弟・にのぎん】
ちょっと変わった依頼が来た。
依頼人の人は昨日、ゴンザブロウ兄さんの事務所に取材に行ったらしい。
その際に兄さんが
「実は弟も探偵のマネゴトみたいなことをしてるんですよ。ハハハ…」
と話していたらしい。
僕はこの探偵事務を始めてからずっと書き続けている日記帳を依頼人に見せた。
良くワカラナイけれど、爆笑していた。
アレかな『チョチョイのスーパーじっちゃん』がウケたのかな。
でも『舞妓が舞い込んだ』にウケてるんだとしたらガッカリだな。
そんな事を考えながら、僕はじっちゃんとメンコで遊んでいた。
これからも、カッコ良くて何でも出来るけど金に目が無いじっちゃんと一緒に、
この探偵事務所を続けていこう!と思った。探偵のマネゴトって楽しいー!!