【お芋文庫】「ぼくんちのダイニングテーブル」

僕の家のダイニングには、ものすごく長いダイニングテーブルがある。
しかも、そのテーブルの長さは日に日に長くなるんだ。
ボクが物心ついた頃は、まだ5メートルぐらいだった。(たぶんだけど)

毎朝、そのちょっと長めのダイニングテーブルに、
ボクとママは向かい合わせに座って朝食を食べる。
時々、ボクの隣にパパ、ママの隣に僕の妹のカズコが座る事もある。
でも大体は僕とママの2人が向かい合わせで座って静かに食事をする。
料理は、ばあやが作って運んできてくれる。

そうそう、そのダイニングテーブルの長さがすごいんだ。
毎日少しずつだけれど、確実に、着々と、伸びている。
気のせいではない。

僕が小学校3年生の時、ママとの会話が困難なぐらいの距離になってきたので、
会話をする時は糸電話を使うようになった。
僕とママは静かに食事をすることが多いから、ほとんど使わないんだけどね。

そして、僕が中学を卒業した頃だったかな、
テーブルの長さは30メートルを越え、糸電話での会話も難しくなってきたので、
遂に本物の電話が導入されたんだ。

僕が高校生になってからは、テーブルの長さがどんどん伸びた。
高1の夏ぐらいには家をはみだして、屋根も無くなった。
それでも僕とママは毎朝、きっと世界一長いのであろう、我が家のダイニングテーブルの
端と端に向かい合わせに座って、ばあやが作った朝食を食べるんだ。

テーブルの長さは4kmとか5kmとかになった。
双眼鏡を使って、お互いの顔を見ながら電話で会話をする。
やがて、双眼鏡も意味をなさないほどの長さになった。
ママの顔は見えないけれど、
このテーブルの先には必ずママが居て、
もしかしたら今日はカズコも来ているかもしれない。
そう思うと毎朝のひとときが楽しかった。
僕の隣にも、時々パパが来て電話でママやカズコと会話をして帰っていく。

僕は大学を卒業し、一般企業に就職した。
それでもダイニングテーブルは日々伸び続けた。
もう、テーブルの先が遠すぎて、どのぐらい伸びているかなんて
わからないのだけれど、きっとものすごい勢いで伸びているんだと思う。

そして、ある日・・・ついに来たんだ。この日が。
僕の背中にママの背中がくっついたんだ。
隣に座ったパパの背中には、カズコの背中がくっついている。
久々の、一家団欒。

めでたしめでたし。